ホテルや旅館といった宿泊業界は、人手不足が非常に問題視されていますが、実は経営者の後継者不足もかなり深刻です。
少子高齢化が進む日本では、中小企業の経営者の高齢化が著しく、宿泊業界においても地方の老舗旅館など中心に経営者の高齢化が進んでいます。
宿泊業の経営者の約1割が事業の継承を考えておらず、その半分は後継者の候補がいないことが原因です。
本記事では、深刻なホテルや旅館の後継者問題について考えていきましょう。
ホテル・旅館の深刻な後継者不足
冒頭でも述べましたが、後継者問題を抱えている日本の中小企業は非常に多いです。
中小企業などの後継者不足の原因として、今までは当たり前に子供に継がせていたものが、社会構造の変化などから子供に家業を継がせるという風習が廃れてきていることが挙げられるでしょう。
宿泊業界も例外ではなく、子どもに事業を継ぐ意思がない、親が子どもに事業を継がせようとする意志がない、そもそも跡取りとなる子どもや親戚がいないなど、さまざまな理由で閉館に追い込まれる旅館が増えてきています。
バブル経済がはじけてからは団体旅行客も減り、日本の宿泊業界は全体的に成長が見込めず、古い温泉街などでも廃れていってしまうところがちらほらと見受けられたのですが、新型コロナウイルスによるパンデミックを経て、さらに閉業してしまう施設が後を絶たなくなってしまいました。
ただでさえ慢性的な人手不足を抱える宿泊業界ですが、小さな旅館などはもともと経営状態が安定しておらず、それに加えてパンデミックの影響も受け、この先の展望が見えないと考える経営者もいます。
単に後継者として後を頼める人がいないというホテルや旅館もありますが、そうした先の見えない中で親族に施設を託すことをためらう方も多いようです。
親族への事業継承
家業の継承という風習が廃れたとはいえ、やはり事業の継承が決まっているホテルや旅館の9割は親族へ施設を託そうと考えているようです。
親族への事業継承のメリットは、何と言っても信頼の高さだと言えるでしょう。
あまり良く知らない第三者へ事業を受け渡すよりも、気心の知れた身内への警鐘を望む方が多いのです。
また、やはり地方では代々家業を続けていくことを重要視する家も多く、敢えて慣習に逆らうこともないだろうと考える経営者や、これからも旅館を守っていくのはやはり一族の者である方が望ましいと考える経営者も一定数いるようです。
しかし、経営を続けていく能力がある人が必ずしも親戚のなかにいるというわけではありません。
ホテルや旅館に限った話ではありませんが、この先日本がさらなるグローバル化の波にのまれていくことを考えると、やはり一族経営には限界がきているのかもしれません。
従業員への事業継承
親戚のなかで後継者の候補がいない場合、ほとんどのホテルや旅館では信頼できる従業員がその跡を継ぎます。
長年勤めてきた従業員にはそれなりにノウハウがあり、何よりも身内にも近い信頼があります。
従業員は今まで経営に直接かかわってきていますから、事業を継承した後もあまり大きな変革を起こさないであろうと思われます。
このままのかたちで穏便にホテルや旅館を残していきたいと考える経営者は、従業員に施設を託したいと考えるようです。
しかし、これまでとは大きな変革が無いと予想される分、市場の変化に対応できなくなっていってしまうという懸念点も挙げられます。
団体旅行から個人旅行へ、「モノ」の消費から体験などの「コト」の消費へ、というような時代とともに移り変わる消費スタイルを柔軟に捉えて経営していくのは、やはりもとからそのホテルや旅館にいた従業員には難しいものがあります。
2023.09.12
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第三者への事業継承
M&Aという言葉をご存知でしょうか。
M&Aとは、Mergers & Acquisitionsの略で、いわば吸収合併や外部からの買収などを指します。
吸収合併や買収と聞くと、経営方針や人事が一新され、今後の従業員の生活が保障されないように感じてしまいますが、近年のM&Aでは人事をほとんど据え置いたまま経営方針の刷新を図るというのが基本です。
第三者への事業の継承は、これまでの伝統が失われ、従業員の雇用が確保できないというイメージがあり、従来はあまり検討されてきませんでした。
しかし、このM&Aというのは比較的イーブンな関係性を保った合併ですので、それまでの従業員の雇用をできる限り確保し、そのホテルや旅館の良さを最大限生かしたうえで、市場の動きなどに応じて経営方針を変えていくというものになります。
インバウンド需要の増加などから、宿泊業界の市場価値は向上しているので、売りに出す際も意外とすぐに買い手が付きます。
なかには怪しい買収の話もありますので、特に外資の吸収合併などはよく条件を確認してから、専門家などに相談しつつ交渉をしていきましょう。
まとめ
ホテルや旅館の後継者問題と事業継承について解説しました。
そのホテルや旅館によって現在の経営状況などはさまざまであると思いますので、どのようなかたちで今ある施設を残していきたいのかを考えながら、後継者問題について取り組んでいきましょう。