10年ほど前は、中国人訪日観光客による「爆買い」という言葉が流行語となりましたが、近年観光客の消費行動が変化しつつあることをご存知でしょうか。
本記事では、「爆買い」に見受けられる「モノ」消費の対極とも言える「コト」消費について解説していきます。
「コト」消費と「モノ」消費
「モノ」消費は、ショッピングなどで実際に手元に残る「モノ」を買うことに多くのお金を費やすような消費の仕方を指します。
新型コロナウイルスが世界的なパンデミックを引き起こす前は、中国人訪日観光客の「爆買い」に代表されるような「モノ」消費が、旅行や観光の業界においても主流となっていました。
一方「コト」消費は、体験や経験に対して多くのお金を費やすような消費の仕方を指します。
「コト」消費の特徴は、そのリピート率の高さにあります。
「モノ」消費は、いちど「モノ」を買ってしまえばそれで終わりという人も多いようですが、「コト」消費では、その地での体験が印象深く記憶に残り、「もう一度体験してみたい」と思う人が多いようです。
ホテルや旅館のマーケティングにおいて、リピーター確保は非常に重要な戦略です。
「コト」消費に焦点を当てたプランを考えることで、リピーターの確保を目指しましょう。
「コト」消費の背景
「モノ」消費が物質的な豊かさを追い求めるものであるなら、「コト」消費は実体のない精神的な豊かさを追い求める消費傾向と言えます。
新型コロナウイルスの感染拡大による行動制限が緩和され、いわゆる「巣ごもり」の間にはできなかった「あれがしたい」「これがしたい」といった「体験」に対する需要が高まっています。
「コト」消費は、そうした「体験」に対する需要の高まりとともに台頭するようになってきました。
また、通販などを用いれば容易く「モノ」が手に入るようになったことも背景のひとつと考えられます。
何でも手に入る、いわば供給過多の状態で、人々は自分が欲するものが何であるのかを見極めたり考えたりすることが困難になってきました。
人間の承認欲求を満たすためには、何か人とは違うものを「所有」しているということが大切です。
高度経済成長期など、「モノ」消費の最盛期には、いかに価値の高い「モノ」を「所有」しているのかがそのままアイデンティティにつながっていたのです。
しかし、誰でもある程度は欲しいものを手に入れることができるようになってしまい、さらには欲しいものすらよくわからなくなってきているなか、「モノ」の「所有」による他人との差別化は難しくなってきています。
そこで、SNSなどで、他人とは違う「体験」を「所有」していると周知することで、承認欲求を満たしているとも考えられます。
実際、国内においては、「コト」消費を追い求める傾向は、Z世代と呼ばれるような、SNSを日常的に利用している若者に強くあるようです。
インバウンド需要の高まりと「コト」消費
ヨーロッパ圏からの観光客は特に、宿泊先へかける費用のウエイトが高いと言われていますが、最近ではアジア圏からの観光客の消費傾向も、「モノ」消費から「コト」消費へとシフトしてきています。
訪日外国人観光客の半数以上が2回以上日本に訪れていると言われており、インバウンド需要のなかにはリピーターからの需要も多くあります。
1回目の日本での滞在で家電製品などの「モノ」を購入した後、2回目以降の訪日観光では「日本でしか体験できないこと」を体験しようと渡航する訪日外国人観光客も多いようです。
また、先にも述べましたが、誰でも、どこにいてもある程度のものは容易に手に入るようになってしまったのも要因のひとつと言えるでしょう。
わざわざ日本に訪れなくとも、「モノ」は自国にいても購入することが可能なのです。
だからこそ、日本に足を踏み入れなければ経験することができないような「体験」を、訪日外国人観光客は求めているのかもしれません。
「コト」消費から「モノ」消費を促す
「モノ」消費から「コト」消費へとシフトする傾向にある昨今ですが、両者は非常に密接に関係しています。
「コト」消費を目的にやってきたとしても、全くもって「モノ」消費をしないというわけではありません。
「今日はここでこんなことを体験したから、記念に何か買っておこう」という発想に至り、お土産を購入するという人は決して少なくありません。
「コト」消費の目的で訪れた顧客に、お土産を買ってもらえるようにさりげなく誘導することも大切です。
お土産を買ってもらうことで、その地域の伝統工芸品に興味を持ってもらい、次に訪れたときに購入してもらったり、オンラインで注文してもらえたりする可能性もあります。
伝統工芸品の消費を促すことは、その地域の産業を守ることにもつながります。
まとめ
「コト」消費について解説しました。
「モノ」消費から「コト」消費へと顧客の消費傾向が変化するように、今後もホテルや旅館を取り巻く市場は刻一刻と変化していくでしょう。
大切なのは、その時、世間ではどのような流行があるのか、それは業界のニーズにどのように影響していくのかを見極めてマーケティング戦略を練っていくことです。