古くから大陸との交易が盛んで、特に鎖国をしていた江戸時代においては数少ない海外との窓口であった長崎県。
特にオランダとの交易によってもたらされた西洋文明や砂糖は、長崎だけでなくその後の日本の食文化に大きな影響を与えました。
和・洋・中の要素を取り入れた華やかな食文化が育まれた長崎県には、魅力的な郷土料理やご当地グルメがたくさん。
本記事では、長崎県の食文化やご当地グルメについてご紹介していきたいと思います。
シュガーロードと砂糖伝来
九州の北西部に位置し、極めて大陸や半島と近い場所にある長崎県は、古くから海外との交易が盛んでした。
鎖国下にあっても中国やオランダとの交易が許されていた長崎では、食文化においても大陸や西洋の影響を大きく受けます。
「豚の角煮」、「天ぷら」など、私たちが当たり前に食べているものも、長崎から日本全国に伝わっていったと考えられています。
なかでも砂糖の伝来は画期的でした。
奈良時代に伝来した砂糖は大変貴重なものでしたが、オランダとの交易によってぐっと身近なものになります。
日本がオランダから輸入していた砂糖の量はなんと年間約2000トン。
カステラなどの甘い西洋菓子が伝わったほか、それまで塩で味付けしていたあんこも甘いものが定着していきます。
長崎から砂糖が伝わった長崎街道・通称シュガーロード沿いには全国から菓子職人が集まり、中国や西洋の技術を取り入れながら日本独自のお菓子を生み出しました。
現在も長崎街道沿いの佐賀県や福岡県ではお菓子の名店が数多く立ち並びます。
そして、シュガーロードの始点である長崎県でもさまざまな甘いものが名物となっているのです。
日本、中国、オランダの食文化が交わる長崎県では、甘いもの以外にも魅力的な食べ物がたくさんあります。
ここからは長崎県を、長崎エリア、県央エリア、県北エリア、島原エリア、離島エリアの5つに分けて見ていきたいと思います。
長崎エリア
まずは県庁所在地である長崎市を含む長崎エリアから。
長崎グルメのほとんどは鎖国時代に中国やオランダから影響を受けて作り出されたものであると言われています。
「卓袱料理(しっぽくりょうり)」と呼ばれる宴会料理はその代表的なもの。
日本の懐石料理や中国の薬膳料理を参考にしたフルコースで、和・洋・中の料理が楽しめます。
現代の日本の食卓に当たり前に登場する「豚の角煮」も鎖国時代に伝わったものをもとにした料理。
中国の東坡肉(とんぽーろ)を卓袱料理の東坡煮(とうばに)にアレンジし、さらに単体で食べる「豚の角煮」が生まれました。
また、長崎県を代表するご当地グルメと言えば「長崎ちゃんぽん」。
中国福建省の「湯肉絲麺」がもとになっていると言われており、豚骨ベースまたは鶏ガラベースのスープを使用しているお店が多いです。
野菜、豚肉、かまぼこのほかに魚介類が入っている場合もあり、お店による味の違いも楽しめます。
ほかにも、「長崎ちゃんぽん」を出前でも食べられるようにあんかけにした「長崎皿うどん」、とんかつ、ピラフ、スパゲッティが一皿に乗った「トルコライス」、とろとろの角煮を挟んだ「角煮まん」など、手軽に食べられるご当地グルメが充実しているのも長崎の魅力です。
県央エリア
橘湾、大村湾、諫早湾の3つの港を抱える県央エリア。
かつてはクジラ漁が盛んで、肉じゃがならぬ「鯨じゃが」という郷土料理が伝わっています。
諫早では有明海や本明川で穫れるウナギも有名。
楽焼(らくやき)と呼ばれる蒸し器に乗った「楽焼うなぎ」が名物です。
すっぽんの養殖も盛んで、すっぽん料理を提供するお店もいくつかあります。
豊かな自然のもと根付いた食文化が今もなお垣間見ることができるエリアです。
県北エリア
海軍のまち・佐世保を含む県北エリア。
このエリアも古くから大陸の影響を深く受けてきた地域です。
戦後は佐世保に駐留するアメリカ軍の影響を深く受け、醤油ベースのソースをかけて輪切りのレモンを載せた「レモンステーキ」や、ボリューミーな「佐世保バーガー」が名物になっています。
また、平戸は全国でも有数のヒラメの漁獲量を誇るまち。
養殖も行われているため、年間を通してヒラメ料理を楽しめます。
島原エリア
江戸時代最後の大きな戦乱とも言われる島原の乱の舞台になったことでも知られる島原エリア。
鰹醤油だしでお餅と野菜を煮込んだ「具雑煮」は、島原の乱で籠城したキリシタンたちが食したと伝わる郷土料理。
現在はお正月やお祭りなどの際に食べられることが多いそうです。
飢饉の際に人々を救ったサツマイモと山芋で作った麵「六兵衛」もこの地域の代表的な郷土料理です。
冷やした白玉団子に甘い蜜を絡めた「寒ざらし」はまだ砂糖が貴重であった時代のおもてなしスイーツ。
島原周辺の観光スポットにあるカフェなどでは定番メニューになっています。
離島エリア
さいごは対馬や五島列島などの離島エリア。
朝鮮半島や大陸への玄関口として大きな役割を担ってきた対馬は、食文化においてもその影響を色濃く受けています。
大陸から伝わった製法をもとにした「対州そば」や壱岐島の「壱岐焼酎」は観光客にも人気の郷土料理・地酒です。
九州最西端に位置する五島列島も大陸との交易が盛んであった地域。
遣唐使が大陸から持ち帰った製法がもとになった「五島うどん」は島の名物。
椿油を塗って手延べした細麺はコシが強く、伸びにくいという性質があります。