北海道の最南端に位置する松前。
かつて蝦夷地と呼ばれた北海道と日本との窓口になっていた場所で、最北の城下町と言われています。
幕末に築かれた松前城は、いわゆる「日本のお城」という形を取っているものとしては最も新しく、日本最後の旧式築城です。
本記事では、松前城の歴史や見どころについて見ていきたいと思います。
地元の人々に親しまれる桜の名所
松前のまちのシンボルであり、春は桜の名所として地元の人々に親しまれている松前城。
「福山城」とも呼ばれており、国の重要文化財である本丸御門や、復元された天神坂門、搦手二ノ門、七番台場などが見どころです。
戦後しばらくまで木造天守が現存していましたが、火災により焼失。
現在は鉄筋コンクリートで再建されており、中は「松前屏風」の複製など松前の歴史や戊辰戦争などに関する展示を見ることができる資料館になっています。
松前藩と北前船・アイヌ民族との交易
松前城について見ていく前に、まずは松前藩がどのように栄えたのかについて簡単に解説しておきたいと思います。
江戸幕府の統治下における「藩」の規模は通常石高で換算され、1万石以上を有する大名が治めるものを「藩」としていましたが、松前藩は米がとれず、石高に換算することは不可能でした。
つまり、正確には「藩」とは呼べないということですが、公的な記録などには確かに大名と同等の扱いがなされています。
松前藩は、幕府から蝦夷の領有やアイヌ民族との交易の独占などの権利を受けており、その権限の大きさから「藩」と同等の扱いを許されていました。
アイヌ民族との交易独占権を得た松前藩は、アイヌの品を全国に広めたことから、「北のシルクロード」とも呼ばれています。
また、松前藩に莫大な利益をもたらしたのが北前船。
大阪と松前を結ぶ商船のことで、北海道で獲れたニシン、昆布、干しアワビが松前を経由して北前船に乗り、全国へと運ばれていきました。
松前の経済の要であり、日本各地に大きな影響をもたらした松前船によるアイヌ民族との交易により、松前藩は「藩」として幕政の中で重きを置いていたのです。
海防の要としての松前城
北前船で栄えた商都・松前は、北の守りの要となる場所でもあります。
そこで幕府が松前藩に命じて築城させた防衛拠点が松前城。
正式な大名ではないため表立って城を持つことは難しく、江戸時代初期に「福山館」と呼ばれる居館を建てそこを拠点としていた松前（蠣崎）氏ですが、幕末に入ると状況は一変します。
北海道周辺で、ロシアなどの外国船が度々現れるようになったのです。
北の守りを強化する必要性を強く感じた幕府は松前藩に築城を命じ、北の脅威への備えとしました。
こうして幕末に完成した松前城は、わが国で最後に築城された旧式城郭であると言われています。
日本最後の旧式築城
では、日本最後の旧式築城とはいったいどのようなものであったのでしょうか。
縄張りは近世城郭における一般的な平山城で、天守は三重三層の独立層塔型。
三重櫓、二重櫓、太鼓櫓などの櫓が建てられ、海の見張り台の役割をしっかりと果たせるようになっています。
特筆すべきなのは、砲台が7つもあったということです。
日本の近世城郭においてこれほどの砲台が用意されるというのは大変珍しく、時代の変遷と幕府の外国への強い警戒心を感じます。
戊辰戦争では戦場になったにもかかわらず天守は残り、開拓使による取り壊しを免れて国宝に指定され、太平洋戦争も潜り抜けたのですが、戦後まもなく火災により焼失してしまいました。
松前城と戊辰戦争
松前城と聞いて、戊辰戦争を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
京都からはじまった戦いはどんどん北上し、やがて旧幕府軍は蝦夷地へと上陸します。
まず五稜郭を占拠した旧幕府軍は、土方歳三を中心とする新撰組を筆頭に、彰義隊、陸軍隊、額兵隊の総勢700人で松前城へ攻め込みます。
ですが、そこは海からの攻撃を意識して7つもの砲台を備えた松前城。
海からの侵入を試みた隊は、新政府軍による砲撃で松前湾からの退却を余儀なくされます。
陸からの攻略を目指す隊は城内へ攻め込み、白兵戦へと持ち込むことに成功。
かなり激しい戦闘の末、新政府軍は城に火を放って退却しました。
幕府軍は一時的に松前城を占拠します。
青森に逃げ込んだ松前藩は、民衆の後押しもあって城の奪還に成功。
旧幕府軍は箱館戦争において最終的には新政府軍に敗れました。
箱館戦争での激しい戦闘の痕跡は、今も石垣の銃創などから見て取ることができます。
まとめ
松前城の歴史や見どころについて解説しました。
北前船やアイヌ民族との交易を通して発展し、城を持つまでになった松前藩。
その存在の大きさと、諸外国に対する江戸幕府の警戒感を感じられるお城です。
周囲の寺町や城下町で育まれた文化も魅力的。
函館や松前に訪れた際には、ぜひ松前城にも足を運んでみてください。